
金融を専門とする英国のシンクタンク「カーボントラッカー」が、東京大学未来ビジョン研究センター、CDPジャパンの協力のもと新しい報告書「日本における石炭火力発電所の座礁資産リスク(原題:The financial risks and economic viability of coal power in Japan)」を10月7日に発表しました。
この本報告書では、再生可能エネルギーのコスト低下が設備利用率や 電力料金の低下をもたらし、日本で現在計画中及び運転中の石炭火力発電所が座礁資産化するおそれがあるという分析結果が示されています。
カーボントラッカーの電力部門長であり本報告書の共同執筆者であるマシュー・グレイは、「世界の電力市場において技術革命が進んでいる。この革命は日本にも訪れつつあり、政府は、速やかに現在の石炭火力を推進する政策を再検討する必要があることを意味している」と述べています。
経済性の分析
本報告書では、3つもモデル(プロジェクト経済モデル/相対経済モデル/座礁資産モデル)を用い、日本国内の新規及び既存の石炭火力発電所の相対的な経済性の分析を行っており、もし設備利用率が48%(2018年実績は78%)、または電力料金が72ドル/MWh以下(同87ドル/MWh、日本卸電力取引所の価格をもとに算出)になった場合、石炭火力発電所の事業性は失われることなどが記されています。
均等化発電原価(LCOE)分析に基づいた比較では、陸上風力、洋上風力、商業規模の太陽光発電は、それぞれに、2025年、2022年、2023年に、石炭火力発電よりも安価になり、さらに石炭火力の長期の限界削減コスト(LRMC)は、2025年には太陽光と洋上風力より、また2027年には陸上風力よりも高くなってしまうという結果も出ています。
日本の政策はパリ協定と整合できるのか
日本政府が今年6月に閣議決定し、国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)に提出された「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」の下、パリ協定と整合的な取り組みを進めようとしていることを考慮し、日本の石炭火力発電がパリ協定の気温目標と整合的に閉鎖していかなければならないことについても検討しています。2℃未満シナリオでは、日本の石炭火力発電所は全て2030年までに閉鎖しなくてはならず、資本投資や運転によるキャッシュフローの減少による座礁資産リスクは、710億ドル(約7兆1000億円)に上ること、この710億ドルのうち少なくとも290億ドルは、政府が速やかに計画中・建設中の発電所の計画を再検討し中止すれば、回避することができるとしています。
報告書には、石炭からの転換を加速させることは、投資家、消費者、そして経済全体にとってよいことであり、計画中及び建設中の案件を中止し、さらに既存の発電所の廃止スケジュールを開発することが重要であると主張しています。