
(2020年6月18日更新)
気候変動による海面上昇と深刻化するサイクロンに悩まされているバングラデシュは、エネルギーインフラ整備に向けて日本に支援を求めている。しかし、100%再生可能エネルギーを使用するというバングラデシュの公約に相反し、日本政府と住友商事は、バングラデシュの主要な沿岸観光地の隣に位置するマタバリで新たな石炭火力発電所の建設を進めている。信じられないことに、日本政府は、マタバリにさらに新たな石炭火力発電所を建設するための公的支援を検討している。
現在建設中のマタバリ石炭火力発電フェーズ1事業は高額の不良投資であり、住友商事と日本にとって恥とも言える失敗作だ。フェーズ2の発電所が決して日の目を見るべきでない10の理由を以下に示した。
マタバリ石炭火力発電事業は、
- 管理を誤った金食い虫
この事業は、コロナウィルスの世界的大流行以前に、すでに予算を30%も超過しており、建設計画が1年以上も遅れていた。[1] この事業の高額費用を捻出するための悪あがきとして、日本は、不良投資を倍にし、マタバリに追加の石炭火力発電所(=フェーズ2)を建設することを検討している。[2] 外務省は、今夏、フェーズ2の発電所建設を進めるかどうかを決定する予定だ。
- 「メイド・イン・ジャパン」ブランドの価値を破壊する
何十年もの長い間、「メイド・イン・ジャパン」は、手ごろな価格での精密な職人技を意味してきたが、それは住友商事がバングラデシュで計画しているものには当てはまらない。マタバリ石炭火力発電所1・2号機は、日本では決して許されないであろう、必要以上に環境汚染を生み出す技術を使用しており、日本における新規石炭火力発電所の平均と比較して、最大21倍のSO2と10倍の汚染粒子を排出する。[3]なぜ日本は、途上国に汚れた技術を押し付けているのか?
- 健康への悪影響
マタバリ石炭火力発電所第1・第2号機からの甚大な汚染は、近隣のコミュニティをWHOの健康ガイドラインを大幅に超えた大気汚染レベルに晒すことになるだろう。大気汚染は、呼吸器疾患や早期死亡の原因ともなる。[4]追加の石炭火力発電所を建設することで、大気汚染や水質汚染はさらに進むこととなる。
- 汚れた借金地獄
マタバリ石炭発電所1・2号機は、非競争入札プロセスや日本政府からの先行融資を含んだ談合、日本企業である住友商事による建設による産物である。[5]日本の支援には代償が付いてくる。建設の遅れ、コスト超過、発電所関連施設の必要性から、同発電所で発電される電気料金は非常に高額になると予想される、と地元メディアは報じた。日本がコスト削減のためにこのプロジェクトを倍加すれば、バングラデシュ政府及び人々は将来、高額の負債、高炭素、高濃度の汚染に苦しめられることだろう。
- 代替再生可能エネルギーよりも高額
日本は、技術ノウハウを利用して、バングラデシュがクリーンで再生可能なエネルギーの未来に移行することを手助けできるはずだ。エネルギーアナリストらによると、太陽光発電はクリーンであるだけでなく、バングラデシュでは石炭よりもはるかに安価な方法であり、石炭火力発電の均等化発電原価110米ドル/MWhに対して太陽光発電では91米ドル/MWhと見積られている。[6]そして、マタバリ石炭火力発電所第1・第2号機ではさらに高額な135米ドル/MWh(5セント/KWh)で発電すると報道されている。[7]バングラデシュの電気料金支払者は、自国が豊富な太陽エネルギーによる可能性を秘めているにも関わらず、このような高額の電気料金負担を抱えるべきではない。
- 気候変動の影響を受けやすい国において、気候変動を悪化させるような新たな汚染源となる
マタバリ石炭発電所1・2号機は現在建設中で、日本政府はさらに2基の石炭火力発電所への公的支援を検討している。バングラデシュは、特に海面上昇や洪水といった気候変動による影響に対してとりわけ脆弱であり、同様の状況にある国々と共に気候脆弱性フォーラムに参加していることを考えると、この現況は皮肉なことだ。
- 作業員への悪影響
バングラデシュのニュース筋は、マタバリ石炭火力発電所第1・第2号機の建設作業員がCOVID-19による全国的なロックダウン中に労働を余儀なくされたため、その後ストライキを行ったと報じている。[8]住友商事は、特に世界的パンデミックの渦中において、提携企業や請負業者が労働者の権利と健康を尊重すべきである。住友商事の日本人従業員4,000名が、2020年4月7日に東京で非常事態宣言が出される以前の3月1日から在宅勤務を行うよう指示されていたことを踏まえると[9]、このダブルスタンダードは特に偽善的と言える。住友商事は初歩的な人権方針を5月に制定したばかりであり、 このような人権軽視の実態は悲しいことではあるが、起こるべくして起きているのだろう。[10]
- 日本の気候公約に反する
日本がパリ協定に参加したことで、内閣は2019年、CO2排出量の世界的削減に貢献するインフラ輸出に関する政策を採択した。日本政府や住友商事のような日本企業が、海外で石炭火力発電所を引き続き建設している状況は、これと矛盾している。さらに、バングラデシュは手頃な価格の代替クリーンエネルギーを有しており、提案されたマタバリ石炭火力発電所は、「エネルギー安全保障及び経済性の観点から石炭をエネルギー源として選択せざるを得ないような国に限り」新たな石炭火力発電所を考慮する、とする第5次エネルギー基本計画(2018年)で定められた要件を満たしていない。[11]
- 地域住民への悪影響
マタバリは人口密度が高く、約9万人が居住しており、エビ養殖と製塩で生計を立てていた。しかし2013年、新たな石炭火力発電所と関連施設建設のために、コミュニティから強制的に5,000エーカーの土地が収用され、地域住民の生活状況は一変した。住民の調査によると、多くの人が補償プログラムに参加できず、代替雇用が提供されず、職や家を無くしたままとなった。[12]これらの補償、代替家屋、雇用の提供の遅れは、国際協力機構(JICA)の環境社会配慮ガイドラインを満たしていないと指摘されている。[13]
- 観光経済への悪影響
このプロジェクトが実施されるマタバリ島は、バングラデシュのコックスバザールの近くにあり、美しい自然、長い砂浜海岸、野生動物保護区、海洋保護区、国立公園により観光客に愛されている地域だ。[14]新たな石炭火力発電所建設による大気汚染や水質汚染は、観光地としてのコックスバザールの長期的な存続可能性を脅かし、将来の経済発展性を損なう。
世界は日本が何を行うかを見守っている。バングラデシュ政府及び市民は、高額の電気料金、高濃度の大気汚染、地球温暖化を伴う汚れた借金地獄に縛り付けられてしまうのだろうか?日本、バングラデシュ、そして世界中の組織は合同で、日本政府に対し、マタバリにおけるフェーズ2の石炭火力発電所への公的支援を行わないよう求めている。[15]住友商事は、企業の評判を守るためにも、マタバリ石炭火力発電事業の管理・建設業務から撤退すべきである。
[1] “Matarbari Power doesn’t bother to disclose Tk10,000cr cost hike.(マタバリ発電所は1,000億タカのコスト上昇を開示する気はない)” The Business Standard.2019年12月21日. https://tbsnews.net/bangladesh/energy/matarbari-power-doesnt-bother-disclose-tk10000cr-cost-hike
[2] “Plan to construct 2nd power plant to reduce cost of Matarbari project.(マタバリプロジェクトのコスト削減のため、第2発電所を建設する計画)” Energy Bangla. 2019年5月31日.
http://energybangla.com/plan-to-construct-2nd-power-plant-to-reduce-cost-of-matarbari-project/
[3] グリーンピース・ジャパンとグリーンピース・東南アジア 「日本の二重基準――海外石炭火力発電事業が
引き起こす深刻な健康被害」 2019年8月20日 (英語全文版)p. 19. https://www.greenpeace.org/japan/nature/story/2019/08/20/9932/
[4]日本の二重基準 (日本語要約版) p. 3. (英語全文版) p. 20-24.
[5] The tourist capital of Bangladesh is endangered by plans to build the largest coal power hub in the world.(バングラデシュの観光中心地が、世界最大の石炭火力発電ハブ建設計画により脅かされる) p. 24
[6] Shirashi, Kenji, Daniel Kammen, et. al.”Identifying High Priority Clean Energy Investment Opportunities for Bangladesh.(バングラデシュにおける優先度の高いクリーンエネルギー投資機会の特定)” International Centre for Climate Change and Development. 2018年2月18日. p. 2. http://www.icccad.net/wp-content/uploads/2014/05/Identifying_investment_Opportunities-for-clean-energy-options-in-Bangladesh.pdf
[7] “Plan to construct 2nd power plant to reduce cost of Matarbari project.(マタバリプロジェクトのコスト削減のため、発電所フェーズ2を建設する計画)”
[9] 住友商事.“全社在宅勤務についてのお知らせ”(新型コロナウイルスに関する対応)ニュースリリース. 2020年2月28日。https://www.sumitomocorp.com/ja/jp/news/important/group/20200228
[10] https://www.sumitomocorp.com/ja/jp/sustainability/csr#02
[11]経済産業省 資源エネルギー庁 「第5次エネルギー基本計画」 2018年7月. p. 20
https://www.enecho.meti.go.jp/category/others/basic_plan/
[12] The tourist capital of Bangladesh is endangered by plans to build the largest coal power hub in the world.(バングラデシュの観光中心地が、世界最大の石炭火力発電ハブ建設計画により脅かされる) p.23-26
[13] 「環境・持続社会」研究センター(JACSES).“Factsheet: Matarbari Ultra Super Critical Coal-Fired Power Project (Bangladesh).(ファクトシート:マタバリ超々臨界圧石炭火力発電事業)” 2019年8月. https://sekitan.jp/jbic/wp-content/uploads/2019/08/Matarbari-Factsheet-20190801_EG.pdf
[14] Bangladesh Poribesh Andolon (BAPA), Waterkeepers Bangladesh. The tourist capital of Bangladesh is endangered by plans to build the largest coal power hub in the world.(バングラデシュの観光中心地が、世界最大の石炭火力発電ハブ建設計画により脅かされる) 2019年11月. p. 2, 13.
[15] 【要請書】バングラデシュ・マタバリ石炭火力発電フェーズ2事業への公的支援を行わないことを求める要請書を送付)” No Coal Japan ウェブサイト. 2020年4月6日. https://www.nocoaljapan.org/ja/demand-letter-to-the-pm-abe-dont-finance-the-phase2-of-matarbari-in-bangladesh/